「仄暗い水の底から」   鈴木光司 著

若旦那です。

この本はずっと手元にあったのですが読んだのは最近なんです。何年か前に黒木瞳さん主演で映画化されていまして、観てはいませんがてっきり母子が得体の知れない者に襲われるホラーだと思っていました。現に読み始めた頃は、淑美と娘の郁子がマンションの屋上で女の子物のバックを見つけてから得体の知れない現象が起こり始め、これからどうなるんだろう〜とドキドキワクワクしてましたから。ところが、次の場面にいったらまったく別の人物が出てきて話が進み、やはりこの後どうなるんだろう〜という所で終わりました。そして、次を見たらやはり別の人物の名前が見てとれ、ここに至ってようやくこの本が短編集だと気付いたのです(苦笑)。最初の淑美と娘の郁子の話で映画の題材になった「浮遊する水」は、奇怪な現象の説明が無いまま終わってしまっていたので消化不良気味だったし、次の「孤島」もその後どうなったのか気になりました。が、それ以降は短編と割り切って読んでいたのと、まあ納得の終わり方だったので特に気にせずサクサク読み進めました。「孤島」の後の「穴ぐら」「夢の島クルーズ」「漂流船」「ウォーター・カラー」まではホラーぽかったですけど、最後の「海に沈む森」は鍾乳洞に閉じ込められた父からの奇跡的に届いた息子への遺言ともいうべきメモ、それを受け取った息子は20年後に父が命を落とした鍾乳洞に向かう、というお話なんですが、この話はホロッときましたね。

この本は東京湾がキーワードになっていて、そこが舞台であったり何らかの形で絡んでいます。作者はあとがきでこのように言っています。
「時代と共に変わる海岸線、その海とも陸とも違う不安定さがホラー小説の舞台としてうってつけだった」
流石に着眼点が違いますね。