「蘭陵王」   田中芳樹 著

若旦那です。

蘭陵王とは北斉の皇族の高長恭の事で、美貌&美声で武勇&用兵も卓越している上に、二十代の若さで悲劇的な最期を遂げるなど、人気が出る条件はそろっているのです。しかし、著者の言う通り三国志演義の様な優れた物語が無かったために、日本では自分を含めてたいていの人が知らなかったんですね。

物語の始まる西暦564年の中国は、東に北斉(正確には斉)・西に北周(正確には周)・そして南には陳という国があって、まるで三国志的状況でした。北斉には蘭陵王の他に斛律光や段韶などの名将がおり、北周が攻めて来ても全く寄せ付けませんでした。ところが、段韶が病死し斛律光が誅殺され蘭陵王も少数の兵しか与えられない状態になると、軍事的優勢を保っていた陳にさえ劣勢に立たされ領土を削られてしまいます。そして、蘭陵王も誅殺されてしまうとわずか4年後に北斉北周に滅ぼされ皇族達も最終的には殺されてしまうのです。

田中芳樹氏は好きな作家の一人で、氏の作品はたいていはあっという間に読んでしまうのですが、今回は蘭陵王の悲劇的な結末を知っている上に、北斉の皇帝である武成帝・高湛やその息子の無愁天子・高緯などが皇族や功臣達を佞臣の讒言を信じ誅殺しまくる様子が気分を暗くし、なかなか読むのが進まなかったのです。三国はどうにか勢力が拮抗していたのに、北斉では暗君・高緯が、かたや北周では名君・宇文邕が立ってからその拮抗はあっという間に崩れてしまいました。専制国家ではトップの資質が大きく左右しますね。それを考えさせられる一冊でした。

話の中で著者の作品である「奔流」の主人公の『陳慶之』の名前が出てきたり、陳の将軍として同じく「匹夫の勇」の主人公の『蕭摩訶』が登場して蘭陵王と闘ったりしたのは読んでいてちょっと嬉しかったですね。それと、北斉の将軍の秦彜の息子が唐の李世民に仕えた秦瓊だったり、同じく北斉の学者の顔之推の五代後の子孫が唐の玄宗皇帝の時代に活躍した顔真卿だったのを知った時は歴史の妙を感じましたね。その顔之推ですが、話の中で先祖があの関羽に斬られた顔良だと言っていたので調べてみたら確かにそうらしいですね。いや〜知りませんでした。

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